猫の病気
2022年01月26日

猫の慢性膵炎。老猫の余命に関わる疾患と、症状や治療法について。

猫の慢性膵炎は膵臓に長い期間炎症が引き起こされる病気であり、中高齢の猫でよくみられる疾患です。高齢猫の余命に関わる嘔吐、下痢などの注意すべき症状やその原因、急性膵炎などの併発、続発する疾患、動物病院でおこなえる診断や治療について獣医師が解説します。

この記事の監修者

増田 国充 氏

獣医師、防災士、2001年北里大学卒 2007年ますだ動物クリニック開院。診療に東洋医療科を加え、鍼灸や漢方による専門外来を実施。運動器疾患に対して鍼灸による治療を積極的に取り入れ、県内外から症例に対応する。また、鍼灸・漢方等で国内外で講演を実施。動物看護系専門学校非常勤講師兼任。
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猫の膵臓に炎症が引き起こされる慢性膵炎

膵臓は胃から続く十二指腸の側にある臓器であり、インスリンの分泌による血糖値のコントロールや、消化酵素の分泌により腸での栄養素の吸収補助をおこなう身体にとって非常に重要な組織です。

猫の膵炎ではこの膵臓に炎症が引き起こされます。膵炎には①症状が急に現れる急性膵炎と②症状が長く続く慢性膵炎の2種類がありますが、猫では慢性膵炎が一般的にみられます。

猫での慢性膵炎は無徴候性とよばれる身体症状がみられない膵炎、もしくは飼い主が症状に気が付かない軽度の膵炎が多くみられると考えられます。なんらかの理由で死亡した猫の膵臓には50.4%で慢性膵炎の兆候が存在し、急性膵炎の兆候も併せ持つものは9.6%存在したと報告されており、別の研究では健康な猫の45%で膵炎の兆候がみられたと述べられています。

猫の膵炎は多くの場合で炎症性腸疾患(IBD)、胆管炎もしくは胆管肝炎、糖尿病、肝リピドーシスなどのいくつかの疾患を併発する特徴があります。併発疾患の存在は治療や管理を難しくし、猫の体調をより悪化させる可能性を示唆しています。

猫が慢性膵炎になってしまったとき

慢性膵炎の症状

猫の慢性膵炎では元気や食欲の低下、嘔吐、下痢、体重減少などの症状がみられます。これらの症状は比較的さまざまな疾患でよくみられるものであり、膵炎に特徴的なものではありません。

慢性膵炎の余命は?

膵炎は血糖値のコントロールに必須なホルモンであるインスリン、非常に強力な消化能を持つ消化酵素の分泌の乱れを引き起こします。

インスリンの減少、枯渇は体重減少や低血糖などの症状、炎症による消化酵素の分泌亢進、臓器外への漏れは自己組織の融解、壊死などの症状を介し致命的な病態を引き起こす可能性があります。

慢性膵炎は軽度の症状が長く続く場合もある疾患ですが、治療の遅れや失敗は猫の余命を短くすることがあります。

慢性膵炎の猫にしてあげられること

慢性膵炎にはいくつかの併発する疾患を持つ、症状がわかりにくい場合があるという特徴を持ちます。膵炎に対して、早期発見、早期治療を行うことは非常に重要なことですが、日常での観察では異常を見落としてしまうこともあります。定期的な動物病院での健康診断は膵炎や併発疾患の発見に非常に役に立ちます。

慢性膵炎に罹患していることがわかった猫に対して飼い主がおこなえることは、獣医師の提案した治療を正確におこなうことです。慢性膵炎は長く続く疾患であり、通院などの負担が大きい側面を持ちます。

一方、自己判断での治療の中止や、獣医師の指示によらない不定期の通院は慢性膵炎の治療を失敗させる原因になります。

気長に、そして腰を据えたしっかりとした治療をおこなっていきましょう。

慢性膵炎にかかりやすい猫

膵炎になりやすい猫の年齢や品種、性別はないと報告されていますが、別の研究では7歳以上の猫で好発するともいわれています。

膵炎は無徴候で罹患しやすく、またいくつかの併発疾患を持つことから、病態が進行した中高齢で認識できる症状がみられるため、このような報告があるのかもしれません。

全年齢の猫で注意すべき疾患であることは確かですが、中高齢の猫では腎臓病などのその他の疾患が好発することもあり、さらに注意深く観察をおこなうべきでしょう。

監修者コメント
増田 国充
ますだ動物クリニック院長/ 獣医師

一般に「慢性~」という名前が付く病気は、長期にわたって病変が存在し不調が続いている際に使われます。おおむね、1週間以上経過した膵臓の炎症が慢性膵炎と考えてよいでしょう。
膵臓という臓器は、食べたものをたんぱく質や脂肪、炭水化物などを小腸で吸収できるように小さく分解する消化酵素を分泌するのが役割の一つです。膵炎では、自分自身が作り出している消化酵素によって細胞にダメージを与えてしまうことが大きな問題となります。炎症を止めるための薬の使用や、膵臓に過剰な負担を与えないような食餌を摂るなどといった「おなかをいたわる」ケアを地道に行って改善につなげていきます。

猫の慢性膵炎の原因と治療

特発性慢性膵炎および三臓器炎

猫の慢性膵炎の95%以上は特発性とよばれ原因がよくわかっていません。また、慢性膵炎では炎症性腸疾患(IBD)、胆管炎もしくは胆管肝炎が併発しやすい疾患ですが、これら3つを併せ持つ病態を三臓器炎とよび、猫でよくみられます。

炎症性腸疾患(IBD)

炎症性腸疾患は小腸などの消化器に異常な量の免疫細胞が浸潤する疾患であり、慢性の下痢や嘔吐を引き起こす原因のひとつです。猫の膵炎の併発疾患でも特によくみられる疾患です。IBDの原因もまたよくわかっていません。

胆管炎

肝臓はお腹にある大きな臓器であり、体内の栄養の貯蓄、エネルギー源や機能的な蛋白質の作成、毒物の解毒など数多くの役割を持ちます。その中に胆汁酸とよばれる消化液の分泌をおこなう機能がありますが、胆汁酸を貯蓄する組織を胆嚢、胆嚢から十二指腸へ伸びる管を胆管とよび、胆管の炎症を胆管炎とよびます。

胆管は膵臓から十二指腸へと伸びる膵管と解剖学的に近接しており、どちらかの疾患の影響を受けやすい組織です。胆管炎を持つ猫の50~65%が膵炎を持つと報告されています。

胆管の炎症は、胆管→胆嚢→肝臓と波及することがあり、その場合を胆管肝炎とよびます。

慢性膵炎と関係の深い疾患

糖尿病

糖尿病は①膵臓にあるインスリンの分泌をおこなうβ細胞の破壊を特徴とするⅠ型糖尿病と、②肥満などの食生活による血糖値の上昇が原因となり身体の細胞がインスリンが効きにくくなるⅡ型糖尿病に区別されます。

猫の糖尿病の90パーセントはⅡ型糖尿病であり、当疾患は膵炎と関係が深いとされています。糖尿病を持つ猫の最大60%で膵炎がみられたとされる報告もあります。

肝リピドーシス

肝リピドーシスは説明が難しい病気です、簡単にかみ砕いて言えば身体が飢餓状態にあるのに、肝臓での脂肪をエネルギーに変化させる作用が上手に働かないため脂肪が蓄積していく疾患です。

肥満の猫や、急激な絶食などが引き金となり発症する場合があり、膵炎と併発することも多くみられます。

慢性膵炎の治療

慢性膵炎の治療では嘔吐や下痢、腹痛などの症状を押さえ、正常な栄養吸収をおこなうことが目的である、投薬による内科的な治療法を主におこないます。

糖尿病などの併発疾患が存在する場合には、病気の種類に応じた治療を同時におこなっていきます。

犬の膵炎では高脂肪食は発症に関与している可能性があり、低脂肪食などの食事療法食の給餌を治療でおこないますが、猫の膵炎では高脂肪食が発症に関与しているかは不透明です。かかりつけ医の判断によっては食事療法をおこなうことも考えられます。

慢性膵炎の治療費

慢性膵炎はいくつもの疾患を併発し、慢性の経過を辿る疾患です。長期間の治療、体調の維持が必要なだけではなく、診断をおこなうため多くの検査を実施することもあります。

これらは治療費が高額になる可能性を表しており、猫が健康なうちから治療のための費用をある程度貯金しておく必要があるといえます。

まとめ
  • 猫の膵炎は消化やインスリン分泌をおこなう臓器の炎症である。
  • 慢性で特発性の膵炎が多くみられ、IBDや胆管炎などの併発疾患がみられる場合がある。
  • 慢性膵炎は中高齢の猫で症状が顕著になる可能性があり、適切な治療の失敗は余命を短くする。
  • 慢性膵炎の治療は内科的な投薬をおこない、正常なエネルギーの吸収を助ける目的でおこなう。
監修者コメント
増田 国充
ますだ動物クリニック院長/ 獣医師

猫の慢性膵炎は、軽度の場合ではなかなか特徴的な症状が得られないことがあり、これまでは検査によって診断することが難しい病気の一つとして挙げられてきました。
近年、診断精度の高い検査項目が実用化され、慢性膵炎と診断される機会が多くなりました。急性膵炎から慢性膵炎に移行するもの、あるいは慢性膵炎が急性化することもあります。他の消化器の不調が膵臓に及んでしまった結果、膵臓の炎症につながってしまう場合など、特徴が掴みにいことも特徴です。「この症状が出たら膵炎である」という症状に乏しい、つまり他の消化器の病気にも見られがちな症状が多いため、この慢性膵炎に限らず吐き気や食欲不振、体重減少がみられた場合は、早めに診察を受けるようにしましょう。

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参考文献

※:Pancreatitis in Cats
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7105028/
※:ACVIM consensus statement on pancreatitis in cats
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7995362/
※:Managing feline diabetes: current perspectives
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6053045/

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この記事のライター

若林 薫

獣医師
ライター

麻布大学を卒業し獣医師免許を取得、大手ペットショップで子犬・子猫の管理獣医師として勤める。その後、製薬企業での研究開発関連業務を経て、ライターとして活動する。幅広い専門知識を生かした記事作成を得意とする。
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