ハムスターの生殖器疾患と余命(※1,2,3)
ハムスターは種類によって異なりますが寿命が2~3年と比較的短い動物であり、1歳を超えた中高齢のメスのハムスターでは子宮や卵巣の病気、生殖器疾患に罹患しやすいといわれています。
中高齢のハムスターがかかりやすい生殖器疾患には感染症や腫瘍性疾患のように命に関わる症状を引き起こすものがいくつか含まれています。
これらの疾患を治療する際には外科的な手術をおこなう場合がありますが、ハムスターは身体が小さな動物であり、犬や猫の手術と比較して負担が大きいといえます。加齢や疾患自体で体力が落ちてしまっていることも身体的な負担を大きくしていると考えられます。
また、そもそもの寿命が短いハムスターでは治療をおこなった場合でも、寿命が5年、10年と伸びる訳ではありません。
ハムスターの生殖器疾患を治療する理由
ハムスターの生殖器疾患に対して積極的な治療をおこなうと、身体的な負担が大きい場合がある、寿命が数年単位で長くなるわけではないことがわかりました。それでは、なぜハムスターの生殖器疾患に対して治療をおこなうのでしょうか?
疾患を治療することでハムスターの生活の質を上げることができるからです。動物をよりよく飼育するための考えとして、クオリティオブライフ、QOLとよばれる生きることの質を表す言葉があります。
生殖器疾患は体力の消耗や、痛み、身体の不自由を介してハムスターのQOLを著しく低下させます。治療をおこなうことでハムスターのQOLを保つことができます。
また、ハムスターの生殖器疾患を治療しても何年も寿命が延びるわけではありませんが、彼らは短命な動物であるがゆえに、1日1日をより長く、より大切に生きることに非常に大きな意味があります。
生殖器疾患をしっかりと治療し、QOLを改善し、1日でも長生きさせることは、寿命が近いハムスターの命をケアするために重要なことなのです。
メスのハムスターによくみられる生殖器疾患(※1,2)
高齢のハムスターでは卵巣や子宮などの生殖器に疾患がみられることがあります。これらの疾患のなかでも、卵巣嚢腫や子宮蓄膿症などは一般的によくみられるとされ、ある研究では平均20カ月の12個体のハムスターのうち6個体で卵巣嚢腫がみられ、1個体で子宮蓄膿症がみられたと報告されています。
卵巣嚢腫とは生殖細胞である卵子を生産する卵巣に体液で満たされた袋状の腫瘤ができる疾患であり、子宮蓄膿症とは子宮に細菌感染が引き起こされ、膿と体液が溜まる疾患です。
そのほかに卵巣や子宮に発生する腫瘍、子宮内膜炎などの疾患がみられることがあります。
子宮蓄膿症や卵巣嚢腫でみられる症状
卵巣嚢腫や子宮蓄膿症などの生殖器疾患ではある程度共通した症状がみられる場合があります。
卵巣や子宮が病的に大きくなりお腹の中を圧迫することによって、お腹が膨らんだようにみえる腹囲膨満、生殖器の感染や出血により尿に血や膿が混じる血尿や膿尿、膿や血でお尻が汚れるなど症状、元気や食欲が低下などの症状がみられた場合、一度動物病院を受診すると良いでしょう。
よく似た症状がみられる疾患
子宮蓄膿症などの生殖器疾患では尿に膿や血が混じる症状がよくみられます。これらの症状は尿中のミネラル分が結晶化し、結石となり尿の通り道を塞いでしまう尿石症や、外部環境の細菌が尿道から感染を引き起こす下部尿路疾患などの泌尿器疾患でも同様にみられます。
正常なハムスターの尿と疾患による尿
尿に血や膿が混じると尿の色が黄色から赤色や白色、濃い茶色などに変化します。犬や猫などの動物では、顕著な尿色の変化はなんらかの疾患を示唆している場合がありますが、ハムスターでは生理的な有色尿がみられるため健康な状態でも尿の色が変化することがあります。
ハムスターの有色尿は発情と深い関わりがあります。4日に1度、1日半程度の長さの発情期が周期的に訪れますが、このとき黄~白色の匂いの強い粘液が外陰部から多く排出されます。粘液が混じった尿は茶褐色から白色が混じった色に変化するため、病的な尿と区別することは難しいことがあります。
症状の早期発見、早期治療(※1,2)
ハムスターの生殖器疾患では症状を早く見つけて、早く治療する必要がある疾患が多くみられますが、その一方で飼育していて変化に気が付きやすい尿の色などの区別が付けづらいため、家庭で健康の判断がしにくい一面もあります。
一方、動物病院では、顕微鏡を使った尿や外陰部の分泌物の検査や、体内にある子宮や卵巣を調べるエコー検査など、病的な状態をより正確に発見することができます。
日々の健康チェックだけではなく定期的に動物病院で検診を受けることで疾患の早期発見、早期治療につとめるようにしましょう。
生殖器疾患の治療法
ハムスターの生殖器疾患の治療法でもっとも根本的な治療のひとつとして外科的な卵巣、子宮の摘出、つまり避妊があります。また、体力的に避妊をおこなうことができない場合などには抗生物質の投与などによる内科的療法をおこなうことがありますが、外科的な治療と比較すると、腫瘍などの疾患では効果がない、感染症を完全に抑えることができない場合があるなどのデメリットがあります。
また、これらの治療にはある程度の費用が必要です。ハムスターは一般的に生体価格が非常に安価であるため、治療費用が生体価格を超えてしまう場合があります。
適正な動物の飼育には快適な飼育環境の整備や、疾患の治療をおこなう必要があります。急な出費に際して困らないよう、前もって治療費などを用意しておく責任があります。

ハムスターの子宮に関連した病気は決して珍しいものではありません。体の変調や症状などから検査を経て診断をしていきます。文中にもありますが、外科手術を含めて治療にはいくつかの選択肢があります。それぞれの治療法にはメリット、そしてデメリットが存在します。最終的な選択をされるのは飼い主さんとなりますが、不安になることもきっとあろうかと思います。主治医の先生とよく相談して、皆さんにとって最適と考えられるものを決めていただければと思います。

ハムスターは犬や猫と比べて寿命が短いだけでなく、ひとたび病気になった場合にその進行は非常に早い傾向にあります。また、病気がある程度進行しないと身体の不調として表れないこともあります。つまり、ある時突然体調不良に至ることがあるということです。今回の子宮に関連した病気もその一つとなりますが、何か気になることがあったら信頼のおける獣医師に早めに相談や受診をして、健康で長生きするための一助としてみましょう。


ペットちゃんのもしもの時、慌てて悔いの残るお別れとならないよう、事前準備が必要です。ペトリィでは生前のご相談も可能です。






ペットちゃんのもしもの時、慌てて悔いの残るお別れとならないよう、事前準備が必要です。ペトリィでは生前のご相談も可能です。
※1:日本獣医師会 会報
エキゾチックアニマルの生物学(XIII) ― ハムスター類の診療の基礎(3)―
http://nichiju.lin.gr.jp/mag/05910/06_3a.htm
※2:日本獣医師会 学校診療動物の診療ハンドブック ハムスター
http://nichiju.lin.gr.jp/small/handbook/2-ham.pdf
※3:Hematologic, Serologic, and Histologic Profile of Aged Siberian Hamsters (Phodopus sungorus)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3103279/