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猫の病気

2021.12.01

2023.09.11

猫のエイズ。末期症状や余命、同居猫への感染性や予防法などについて

猫エイズは猫でよくみられるウイルス性の疾患です。人のエイズと同じように免疫不全を引き起こし、猫エイズではAIDS関連徴候期やAIDS期などの末期症状が知られています。そのほかの猫エイズの症状や余命、人や猫への感染性や予防法などについて獣医師が解説します。

この記事の監修者
監修者

江本 宏平氏

株式会社 B-sky 代表取締役 / 獣医師

江本 宏平氏

株式会社 B-sky 代表取締役 / 獣医師

獣医師、犬猫の在宅緩和ケア専門、2012年日本大学卒
通院できない犬猫に獣医療を届けるため、往診専門動物病院わんにゃん保健室を設立。
短い時間の中で行う「業務的な診察」ではなく、十分な時間の中で家庭環境を踏まえた診療プランを提供できる「飼い主に寄り添う診察」を心がけています。

猫のエイズ、猫免疫不全ウイルス(FIV)とは?

猫エイズ感染症は猫免疫不全ウイルス感染症ともよばれ、野良猫や外飼いの猫に蔓延するウイルス性の感染症です。レトロウイルスとよばれる一度感染すると、身体の中から追い出すことが非常に難しい種類の病原体が原因となり、一度罹患すると治癒が望めないこと、命に関わる重い症状を引き起こす可能性があることから猫の飼育において大きな問題とされています。(※1,3)

猫エイズの症状

猫エイズ感染症は人のエイズの病原体と近縁の猫免疫不全ウイルス(FIV)が原因となり、免疫不全とよばれる症状を引き起こします。猫エイズにおける免疫不全とは細菌やウイルス、寄生虫などの体内に侵入してきた病原体を排除するシステムである免疫機能を担う細胞にFIVが感染することにより、免疫機能が十分に機能しなくなることで感染症にかかりやすく、治りにくい状態になることを指します。

猫エイズでは急性期、無徴候キャリアー期、全身性リンパ節膨大期、エイズ関連徴候期、エイズ期といった特徴的な症状がみられる病期がみられ、数年から10年前後の長い時間をかけて感染が進行していきます。

急性期

猫エイズにおける急性期は猫がFIVに感染したのち数週間から数カ月の間を指します。

慢性潰瘍性口内炎はもっともよくみられる症状だといわれており、FIV感染猫の50%前後で観察されます。喉の奥から上顎の歯肉に粘膜のえぐれを伴う炎症がみられ、よだれで口がよごれる、ひどい口臭、口の中を痛がり食事を残すなどの症状としてみられます。

そのほか、発熱や慢性鼻炎、咳、下痢、結膜炎、皮膚炎などの症状がみられますが、これらの症状は軽度なことが多いとされています。

無徴候キャリアー期

急性期の次に無徴候キャリアー期が訪れます。この病期では数カ月から数年、場合によっては10年近くまで特に大きな症状がみられません。しかし、無徴候キャリアー期の猫はウイルスの排出をおこなっており、ほかの猫に感染を広げることができる状態です。

全身性リンパ節膨大期

全身性リンパ節膨大期は免疫機能を担う組織である全身にあるリンパ節が腫れる症状がみられるほかは無徴候キャリアー期と同様に大きな症状がみられない期間です。数カ月以内の短い期間を経て、最後の病期であるエイズ関連徴候期、エイズ期に移行します。

末期、エイズ関連徴候期および後天性免疫不全(エイズ)

エイズ関連徴候期とさらに進行した病期であるエイズ期では、FIVによる重い免疫不全による症状がみられます。貧血による粘膜色蒼白、運動不耐性、白血球減少症による重い日和見感染症、リンパ腫や皮膚扁平上皮癌などの悪性腫瘍の発生、免疫性糸球体腎炎による腎不全などの症状や、続発する疾患は最終的に猫を死に至らしめます。

猫エイズの治療法

猫エイズは治療できる?

残念ながら一度感染が成立したFIVは猫の身体から排除することはできません。猫エイズは根治的な治療ができない疾患であり、いかに感染させないかが重要だといえます。

猫エイズは人に感染する?

猫エイズは人のエイズと近縁のウイルスですが、人に対する感染性は知られていません。同様に犬などの一般的に飼育されている伴侶動物にも感染することはありません。

ライオンやトラなどの猫科の動物には感染するといわれています。

猫エイズと猫白血病の違い

猫エイズ(猫免疫不全ウイルス感染症,FIV)と混同されがちなウイルス性疾患に猫白血病(猫白血病ウイルス感染症,FeLV)があります。どちらも感染後、体外に排除することが難しいレトロウイルスの仲間が原因となる疾患であり、野良猫や野外飼育猫の間に蔓延し、感染源となっているという共通点があります。

FeLVがFIVと大きく異なる点として、感染後数年以内という比較的短い期間でウイルス性の腫瘍を発生させ、また骨髄抑制による貧血、免疫不全で猫を死に至らしめるという点です。FeLVによる腫瘍は猫の腫瘍による死因の1/3を占めていると報告されています。FIVは経過が長く、かならずエイズ期の劇的な症状がみられるわけではありません。場合によっては無徴候キャリアー期のまま天寿を全うすることもある疾患です。

猫エイズと猫白血病の余命

先述した通り、猫エイズ(FIV)と猫白血病(FeLV)は大きな余命の差があります。FIVに感染している猫の平均生存期間、すなわち余命を表す数値はいくつかの研究においてFIVに感染していない猫と同様であったと報告されています。

一方、FeLVの猫では平均生存期間は312日であり、FeLVに感染していない猫の平均生存期間である732日より、短くなっていると述べられています。他の研究においてもFeLV感染猫の生存期間の中央値が2.4年であり、FeLVに感染していない猫では6.0年であったことから同様の結果が報告されています。

猫エイズや猫白血病を調べるためには?

飼育している猫が慢性の口内炎などの疑わしい症状を持っている、野外に逃げだしてしまった猫を捕獲した、野外で仔猫を拾った、などの場合には猫エイズや猫白血病に罹患していないかを調べる必要があります。これらの疾患の検査は動物病院で受けることができます。
(※2,3)

猫エイズの予防法

(※2)

猫エイズの感染経路

猫エイズのウイルスは感染猫の唾液や血液、尿に排出されます。主な感染経路は喧嘩による咬傷を介したものです。

ウイルス排出の有無と病期には関係がなく、症状がみられない無徴候キャリアー期や全身性リンパ節膨大期の猫でも、他の猫にウイルス感染を引き起こすことができます。

外飼いをやめる

室外飼育の猫と比較して野良猫や野外飼育の猫ではFIVに感染している猫ではFIVに感染している可能性が高くなります。

猫の外飼いはこのようなFIV感染野猫との喧嘩や交尾を介し、猫エイズの伝搬に非常に大きな役割を持っています。

また、猫エイズ(FIV)、猫白血病(FeLV)の死亡率を調べた研究では完全室内飼いの猫はFIVやFeLVに感染しても、外飼いの猫よりも死亡率が低かったと報告されています。

日本の猫の寿命を調べた統計においても、完全室内飼いの猫より外飼いの猫は寿命が数年短くなったとされています。

FIVやFeLVの感染防止の側面だけではなく、猫を長く健康に飼育するという面でも外飼いには一切の利点はありません。猫は室内で飼育するようにしましょう。

去勢、避妊をおこなう

猫に去勢や避妊をおこなうことにより発情による望まない外出や喧嘩によるFIVの感染を防ぐことはできる場合があります。これはすでにFIVに感染してしまっている家猫が他の猫に感染を広げないためにもおこなう価値があることです。

避妊、去勢は性ホルモンが関係した問題行動を抑えることができますが、その効果は手術を実施したから100%期待できるものではないということも同時に留意しておくべきです。

ワクチンの接種をする

猫エイズ(FIV)や猫白血病(FeLV)にはワクチンがあります。ワクチネーションをおこなうことである程度の感染予防効果があるとはいわれていますが、これらのワクチンはノンコアワクチンとよばれ動物病院で必ず接種を受けるべきワクチンではありません。

監修者コメント
江本 宏平
株式会社 B-sky 代表取締役 / 獣医師

現在、FIVのワクチンを扱っている動物病院はかなり希少です。
そのため、もし希望されるのであれば、事前に取り扱っているかの確認をすることをお勧めします。また、外飼いは基本的には禁止としている地域が多いのですが、どうしても外出してしまうのであれば、FeLVまで含めた5種ワクチンの接種がお勧めです。しかし、ワクチンは完全に感染しないというものではなく、感染すると重篤な症状を出す病気の重症度の抑制が目的ですので、これを考えても外出させないことが何より大切です。
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ノンコアワクチンに含まれるいくつかのワクチンはワクチン関連肉腫とよばれる腫瘍性疾患の発症に関与している可能性があります。同居猫がFIVやFeLVに感染しているなど、感染のリスクが高い飼育環境にある場合に、かかりつけの獣医師に相談し接種を決めるようにしてください。

同居猫が猫エイズに感染してしまったとき

(※2)

同居猫の隔離の徹底

同居猫がなんらかの理由で猫エイズや猫白血病に感染してしまったとき、まだ感染を受けていない猫にウイルスを伝搬させないようにしなければなりません。

感染予防のためにはウイルス陽性の猫を隔離する必要があります。ウイルス陰性の同居猫が接触できない猫用の部屋を用意し、飼育するようにしてください。また、餌入れや水入れ、トイレなどは完全に別にするようにし、清掃時に混ざらないようにしましょう。

日本の住宅事情を鑑みても、FIV感染猫用の部屋を用意することは非常に大変です。猫を外に出さないことを徹底し、そもそも感染させないことが何よりも大事です。

消毒の徹底

FIVやFeLV感染猫の世話をおこなった場合、猫の唾液や尿などの感染源と接触した手や容器は消毒する必要があります。これらのウイルスは外部環境に弱く、一般的な洗剤などで簡単に感染力を失わせることができます。注意して欲しい点として、食事の容器などに唾液がこびりついている場合、ウイルスのすべてを消毒できないことがあります。きちんと洗浄をおこなうようにしましょう。

まとめ

  • 猫エイズは野外猫などとの接触による猫免疫不全ウイルス(FIV)の感染によって引き起こされる。
  • 猫エイズの末期症状では免疫不全による細菌などの二次感染や、リンパ腫などの発生がみられる。
  • 末期症状がみられない場合、健康な猫と同じ程度の余命を得ることができることがある。
  • 猫エイズは同居猫に咬傷や、唾液や尿、血液などを介して感染できる。
  • 猫エイズを予防するためには、完全室内飼育の徹底、同居感染猫の隔離、消毒の徹底、ワクチンの接種をおこなう。
監修者コメント
江本 宏平
株式会社 B-sky 代表取締役 / 獣医師

FIV陽性だからと言って、もう長生きしない、と一概に思ってほしくないです。
FIV陽性の猫ちゃんであれば、陰性の猫ちゃんよりも病気になった時に治りづらい、ということを念頭に置いて治療に臨むことが必要ではありますが、最初から諦める必要は決してないです。何より大切なのは感染を物理的に回避させるために、外に出すことはしないなどの徹底ですが、もし現段階でFIV陽性だとするならば、ストレスをできる限りかけないことを心がけてください。大きなストレスの影響は、FIV陽性猫ちゃんからすると甚大な影響を及ぼすかもしれませんので、くれぐれも注意してくださいね。
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よくあるご質問

  • Q

    猫エイズは治療できる?

    A

    残念ながら一度感染が成立したFIVは猫の身体から排除することはできません。

  • Q

    猫エイズは人に感染する?

    A

    猫エイズは人のエイズと近縁のウイルスですが、人に対する感染性は知られていません。

  • Q

    猫エイズや猫白血病を調べるためには?

    A

    飼育している猫が慢性の口内炎などの疑わしい症状を持っている、野外に逃げだしてしまった猫を捕獲した、野外で仔猫を拾った、などの場合には猫エイズや猫白血病に罹患していないかを調べる必要があります。

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この記事の執筆者
執筆者

若林 薫氏

獣医師
ライター

若林 薫氏

獣医師
ライター

麻布大学を卒業し獣医師免許を取得、大手ペットショップで子犬・子猫の管理獣医師として勤める。その後、製薬企業での研究開発関連業務を経て、ライターとして活動する。幅広い専門知識を生かした記事作成を得意とする。

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