2022.04.25
2023.09.11
猫の腎臓病。末期症状である尿毒症や、慢性腎不全について解説。
猫は腎臓病にかかりやすい動物であり、なかでも慢性腎不全はよくみられる病気です。中高齢で発症しやすく、尿毒症などの余命に関わる末期症状がみられる場合があります。猫の慢性腎不全の症状や原因、動物病院でおこなえる治療などについて獣医師が解説します。
猫の腎臓病である慢性腎不全とは?
慢性腎不全は中高齢の猫で多くみられる腎疾患であり、3カ月以上続く腎機能の低下と定義されています。
腎臓は体内の老廃物の排出をはじめとした生命の維持にとって非常に重要な役割を持つ臓器です。慢性腎不全が進行し腎機能が低下することで生命の質を表すQOLを低下させる症状や、尿毒症などの末期症状を引き起こす病態がみられます。
急性腎不全と慢性腎不全の症状や原因の違い
猫でよくみられる腎臓病には急性腎不全と慢性腎不全が含まれています。
急性腎不全はウイルスや細菌感染、薬物の誤食による中毒などによって引き起こされる症状が急速に進む疾患です。
一方、慢性腎不全ははっきりとした原因はわかっていませんが、長期間にわたって徐々に症状が悪化する特徴を持ちます。加齢や歯周病、膀胱炎、猫免疫不全ウイルス(FIV)感染症、甲状腺機能亢進症などの要因は発症に対するリスクであると報告されています。
慢性腎不全では尿細管間質の線維化とよばれる病態がみられることが知られています。これはなんらかの原因により障害をうけた腎臓の組織が、繊維組織とよばれる本来の腎機能を持たない組織に置き換わり、老廃物の除去や尿の生成といった役割を失っていく状態です。
慢性腎不全で注意が必要な症状
多飲多尿、乏尿欠尿
慢性腎不全では腎臓の尿を凝縮する能力に障害がみられます。その結果、少量の水分に多くの老廃物が解けている状態である正常な尿に比べて、水分量が増えうすくなった異常な尿が排出され、尿量や尿の回数が増える多尿とよばれる症状が引き起こされます。また、多尿は体内の脱水の原因となるため、失われた水分を補うために水を多く飲む多飲とよばれる症状も同時にみられます。
腎不全の進行により腎臓の尿を生成する能力に異常がみられ、次第に尿が少なっていく乏尿、尿が出なくなる欠尿とよばれる状態に移行します。
食欲不振、嘔吐や体重減少
腎臓の正常な尿をつくりだす機能が低下することで、老廃物の蓄積や体液の成分の不均等がみられるようになります。猫は体調不良により強い吐き気を感じるようになり、嘔吐や食欲不振が引き起こされます。さらに、これらの症状や腎不全に起因する栄養の吸収不全は体重の減少や削痩などの症状を引き起こします。
高血圧性網膜症
慢性腎不全では腎障害に起因する全身性高血圧が知られています。視神経が含まれる眼の組織である網膜は高血圧による障害がみられやすく、失明や視力の低下などの症状を持つ高血圧性網膜症がみられます。
末期症状のひとつである尿毒症
慢性腎不全ではアンモニアなどの老廃物が尿から排出されず血液中に蓄積していき、また体液の成分バランスの異常がみられます。これらの病態は吐き気や食欲不振などの症状を引き起こしますが、病気がさらに進行することで尿毒症とよばれる末期症状の原因となります。
尿毒症では尿毒素による神経障害、胃腸などの消化器障害がみられ、ひどい口臭、口の中の潰瘍、胃潰瘍による吐血、コーヒ様の吐しゃ物、浅く速い呼吸、痙攣、意識レベルの低下などの症状を引き起こします。
IRISステージ分類
猫の腎不全の進行や余命を理解するためにはIRIS(International Renal Interest Society)ステージ分類について知識を付けておく必要があります。この分類ではもっとも軽度の慢性腎不全であるStage1から、重度であるStage4までの4段階で病期を区分しています。
Stage.1
目に見える症状である臨床症状はみられないが、腎臓になんらかの異常がみられる猫が含まれる病期です。
Stage.2
軽度の臨床症状がみられる猫が含まれます。Stage.2に区分された猫は、末期の慢性腎不全まで症状が進行するとされています。
Stage.3およびStage.4
Stage.3は重度の臨床症状、Stage.4は集中的な治療を必要とする末期症状がみられる猫が含まれます。
慢性腎不全の余命
慢性腎不全に罹患した猫の全体の余命は771日であり、IRISステージ分類に基づく猫の余命では、軽度の臨床症状がみられるStage2bで1151日、重度の臨床症状がみられるStage3で778日、集中治療が必要であるStage4では103日であったと報告されています。
慢性腎不全にかかりやすい猫
慢性腎不全は中高齢の猫に多い疾患であり、10歳以上の猫の10%前後、15歳以上の猫の30%以上が罹患していると報告されています。また、シャム、ペルシャ、アビシニアン、ヒマラヤ、メインクーン、ロシアンブルー、バーマンなどの猫種では発症のリスクが高いとされています。
病気が発症した猫にしてあげられること
通院の継続
慢性腎不全に罹患した猫にとってもっとも効果的なケアは、きちんと動物病院への通院をおこなうことです。
動物病院では猫のQOLを大きく下げる吐き気や食欲不振などの症状を緩和する投薬や輸液、腎不全の進行を遅くするための食事療法食の処方、獣医師による体調のチェックなど、さまざまな治療を受けることができます。
在宅でのターミナルケア
末期腎不全の猫では寝たきりになりターミナルケアを必要とすることもあります。自宅でのケアでは、寝返りをとらせ床ずれを予防する、食事や飲水の補助、排せつ物などのよごれを取り除き身体の清潔を保つようにしましょう。
ターミナルケアにおいてもかかりつけの獣医師と連携することは重要です。獣医師の指示のもと、脱水のケアや、栄養状態の維持など、猫のQOLを維持するための一部の手技をおこなうことができる場合があります。
動物病院でおこなう検査と治療
慢性腎不全の検査
慢性腎不全の検査では全身状態を調べる触診や視診などの身体検査、腎臓の状態を視覚的に調べるエコー検査やX線検査、尿に含まれる不純物や成分を調べる尿検査、内臓の状態を確かめるための血液検査などをおこないます。
慢性腎不全でおこなう血液検査ではBUN、クレアチニン(CRE)などの生化学的な数値を測定します。BUN、クレアチニンはそれぞれ蛋白質の代謝、骨格筋の働きで生成され、腎臓から体外に排出される物質であり、腎機能の低下により血液中の濃度が上昇します。
また、近年ではSDMAとよばれる物質の測定をおこなう場合もあります。SDMAはクレアチニンと比較してより初期の腎疾患を見つけ出すことができる利点があります。クレアチニンは腎機能の指標である糸球体濾過率(GFR)が75%低下した時点で数値が上昇し、一方SDMAは糸球体濾過率が40%低下した時点で上昇すると報告されています。SDMAは腎機能低下をいち早く見つけることができる指標ですが、数値の上昇が本当に腎機能の低下を表しているのか、という点ではBUN、クレアチニンのように長く使われている指標に利点があります。
獣医師がおこなう治療
慢性腎不全の治療では腎機能の低下により引き起こされる症状を抑える目的で内科的な治療法が選択されます。初期の腎不全では食事療法食の給餌による腎機能の保護、点滴による血液成分の調整、脱水の補正、全身性高血圧を抑える投薬などの治療をおこなっていきます。
食事療法食は獣医師によって処方される、治療の補助を目的とした特別な飼料です。不適切な使用は体調不良を招く可能性があります。かならず獣医師の指示により購入し、自己判断で与えないで下さい。
腎不全がある程度進行した場合、より頻回の輸液、嘔吐や下痢などの消化器症状への対処、腎機能の低下が引き起こす貧血の治療、尿毒症を軽減するための治療などを追加しおこなっていきます。
尿毒症がみられる状態まで症状が悪化した猫では輸液や薬剤の投与による厳密な血液成分の調整、腎機能を人工的におぎなうための腹膜透析、神経症状や強い消化器症状を抑えるための治療をおこないます。
猫の腎臓病の予防と早期発見、早期治療
慢性腎不全は長い闘病を必要とし、徐々に体調が悪化していく疾患であり、できる限りの疾患の早期発見と早期治療が非常に大切になります。
疾患の早期発見には、多飲多尿や元気食欲不振などの症状をみつけるための毎日の健康チェックをおこないましょう。中高齢の猫は疾患の発症リスクが高いと考えることができるため、体調に異常がなくても定期的な動物病院での健康診断を受診するようにしてください。血液検査や画像診断では眼にみえない疾患の兆候をみつけだすことができる可能性があります。
また、猫の腎臓をケアするためには飲水とトイレを清潔に保つようにしましょう。飲水、排泄を我慢することで泌尿器のトラブルを引き起こすかもしれません。
まとめ
- 慢性腎不全は中高齢の猫で多くみられる腎臓病であり、長期間にわたって徐々に症状が進行していく。
- 腎機能の低下は多飲多尿、元気食欲の低下、嘔吐、体重減少などの症状を引き起こす。
- 慢性腎不全では尿毒症による神経症状や消化器症状などの末期症状がみられる。
- 当疾患に罹患した猫では病気の早期発見、早期治療、また適切な通院が非常に重要である。
International Renal Interest Society
http://iris-kidney.com/
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https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4864943/
Survival in cats with naturally occurring chronic kidney disease (2000-2002)
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Renal fibrosis in feline chronic kidney disease: known mediators and mechanisms of injury
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1090023314004225?via%3Dihub
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この記事の執筆者
若林 薫氏
獣医師
ライター
若林 薫氏
獣医師
ライター
麻布大学を卒業し獣医師免許を取得、大手ペットショップで子犬・子猫の管理獣医師として勤める。その後、製薬企業での研究開発関連業務を経て、ライターとして活動する。幅広い専門知識を生かした記事作成を得意とする。
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