2021.12.23
2023.09.11
犬のフィラリア症、症状末期では命に関わる場合も。予防や治療を解説
犬のフィラリア感染症は蚊が媒介する寄生虫が引き起こします。無徴候の初期症状から、犬を死に至らしめる末期症状まで進行する病気ですが、動物病院で処方される駆虫薬の投与により予防をおこなうことができます。飼い主として知っておくべきフィラリアの知識について獣医師が詳しく説明します。
この記事の監修者
江本 宏平氏
株式会社 B-sky 代表取締役 / 獣医師
江本 宏平氏
株式会社 B-sky 代表取締役 / 獣医師
獣医師、犬猫の在宅緩和ケア専門、2012年日本大学卒
通院できない犬猫に獣医療を届けるため、往診専門動物病院わんにゃん保健室を設立。
短い時間の中で行う「業務的な診察」ではなく、十分な時間の中で家庭環境を踏まえた診療プランを提供できる「飼い主に寄り添う診察」を心がけています。
フィラリアは心臓や血管に潜む寄生虫
フィラリアは蚊によって媒介される寄生虫であり、Dirofilaria immitisという学名でよばれています。成虫は18~30㎝ほどの細長い紐のような体をしており、犬の心臓に寄生します。
フィラリア症の犬では虫体によって心臓や血管の血流が阻害され、心臓疾患や呼吸器疾患によく似た症状を引き起こします。
近年の日本ではフィラリア症は減少傾向ではありますが、東京における保護犬に対する研究では1999~2001年は46.0%、2009~2011年では18.2%と一定以上の有病率が報告されています。また、都市部と比較して郊外ではさらに有病率が高くなるとも述べられています。
フィラリア症の症状
感染初期の症状
蚊の吸血によって犬に感染したフィラリアは組織中や血液中で成長し、成虫になると心臓に寄生するようになります。幼虫のフィラリアであるミクロフィラリアは250~300μmと小さく、単体の寄生では大きな症状を引き起こしませんが、成虫のフィラリアは数十㎝の長い虫体を心臓の空間に折り曲げて寄生するため、血流障害を引き起こします。
軽度のフィラリアの感染では、咳や運動不耐性、元気食欲の低下などの症状がみられ、これらの症状は犬の体内のフィラリアが生殖し、増殖することで悪化していきます。
運動不耐性とは散歩を嫌がる、すぐに疲れてしまうなどの症状をいいます。
感染中期~末期症状
感染中期から末期にかけて、心臓に数多くの成虫のフィラリアが移動し、内部の空間には虫体がぎっしりと詰まるように寄生するようになります。これにより心臓内を移動する血流が著しく悪化するだけではなく、寿命を迎えたフィラリアの虫体などが血流に乗って肺の血管を塞栓させるようになります。
肺高血圧症や、肺の血管から水分が染み出し呼吸を難しくする肺水腫、心臓や肺の血流がおかしくなることで、心筋に負担がかかり異常に大きくなる心肥大、心臓に血流が流れ込まなくなることによる全身の血流のうっ滞と、うっ滞した血流がお腹の空間に染み出し、体液が貯留する腹水、腹囲膨満などの症状がみられるようになります。
これらの症状は重度の心疾患や呼吸器疾患でみられる症状とよくにており、換気ができないことによる窒息、苦しそうな浅く速い呼吸、口から泡を出す、舌が青白くなるチアノーゼ、お腹に水がたまり膨らむ、強い運動不耐性などの症状を引き起こします。
フィラリア症の末期症状では心臓機能の破綻、重度の窒息、心筋の障害による不整脈などが原因となり、犬が死亡する場合があります。
大静脈症候群について
フィラリア症はフィラリアの寄生が次第に重度になることにより、慢性で進行性の症状がみられる特徴がありますが、急性の命に関わる症状もみられます。
大静脈症候群はベナケバ・シンドロームともよばれるフィラリアによって引き起こされる急性で致死的な病態です。犬が急にぐったりとする、血が混じったようなワイン色の尿がみられる、呼吸困難などの症状がみられ、緊急の処置をしないと死に至る状態です。
大静脈症候群は心臓と肺をつなぐ肺動脈に寄生するフィラリア成虫が、虫体が移動することにより心臓や、全身から心臓へ流れ込む血管である大静脈の血流を阻害することで引き起こされます。
フィラリア症の犬にしてあげられること
フィラリア感染症は適切な予防をおこなう、適切な治療をおこなう、再発をさせないことで腫瘍性疾患や進行性の心疾患のように終末期のケアが必要な段階まで病状が進行することをある程度防ぐことができる疾患です。
まず、フィラリア症の犬にしてあげられることでもっとも大きな効果があることは予防医療です。現在、フィラリアの感染は月に1回の予防薬の投与で防ぐことができます。成虫まで成長したフィラリアを駆虫することは、さまざまな問題を解決する必要があります。定期的な駆虫をしっかりとおこなうようにしましょう。
仮にフィラリア症にすでに感染してしまった犬にしてあげられることで非常に大切なのは治療をおこなうことです。幸いなことにフィラリア症は一度感染が成立してしまった場合でも治療方法が確立されている感染症です。そして、治療をおこなわない、中途半端な治療をおこなうことで犬の体内のフィラリアが増殖し、どんどん病状が悪化していく疾患でもあります。
治療をしっかりとおこなうためには、獣医師に指示された通りの間隔で通院を継続し、投薬をおこないましょう。けして自己判断で治療を中止したり、獣医師を介さない方法で投薬や治療に類する行為をおこなわないようにしてください。
フィラリア感染症の予防、治療薬には特定の犬種に毒性を持つ、また動物病院でのモニタリングにより適切な使用量を調節しないことで命に関わる症状を引き起こすものが含まれます。
また、致死的な急性症状である大静脈症候群の治療は、なんどでも繰り返しおこなえる手技ではありません。フィラリア症の治療後に予防をきちんとおこなわなず、再度フィラリアが感染し急性大静脈症候群を引き起こした場合、治療が行えない可能性も考えることができます。
フィラリアはどのように感染する?
蚊が媒介する寄生虫
フィラリアは蚊によって感染が成立する寄生虫です。蚊の体内にはフィラリアの幼虫であるミクロフィラリアが存在する場合があり、蚊が吸血する際に犬の体内に移動することで感染が起きます。
ミクロフィラリアは犬の血液中などで180日ほど成長し成虫になります。フィラリアの成虫は心臓や、心臓と肺を結ぶ肺動脈に移動し生殖をおこない、新たなミクロフィラリアを血液中に放出します。
このミクロフィラリアを蚊が吸血することで、フィラリアは次の宿主へと感染を広げていきます。
ミクロフィラリアと成虫
フィラリア症においてミクロフィラリアと成虫のフィラリアを区別することには大きな意味があります。ミクロフィラリアは体長250μm~300μmととても小さく、一方フィラリア成虫は18~30cmの細長い虫体を持ちます。身体のサイズの違いによる病原性の大きさの差だけではなく、ミクロフィラリアとフィラリアは駆虫に使用することができる薬剤も異なります。
フィラリア症の予防で使用されるイベルメクチン系の薬剤は、動物病院で簡単に処方され、またミクロフィラリアの駆虫に効果的ですが、成長したミクロフィラリアやフィラリア成虫に対してはそうではありません。成虫のフィラリアを駆虫するためにはかなり強い薬を使用する必要があります。
フィラリア症は人や他の動物にうつる?
フィラリアは人や猫などの他の種類の動物に感染を引き起こすことができます。人および猫のフィラリアの感染は、犬とは異なり数匹の成虫がかろうじて寄生している状態であり新たなミクロフィラリアの産生もほとんど起きないとされていますが、人と猫では症状の重さが異なります。人におけるフィラリア症は症状がみられない無徴候性であり、一方猫のフィラリア症はフィラリア関連呼吸器症状とよばれる重度の呼吸器症状を介して急死の原因になり得ます。
猫においてもフィラリア症の予防をおこなうことができます。重篤な症状を防ぐためには動物病院で処方される予防薬の定期的な投与をおこないましょう。
フィラリア症の予防法
フィラリア症の予防は一般的に蚊が発生する1カ月前から蚊の発生がみられなくなった1カ月後までおこないます。この期間中にはや使用する薬剤によって異なりますが基本的に月に1回のフィラリア予防薬の投与をおこないます。
フィラリア予防薬は動物病院での簡単な検査を受けるだけで処方してもらえますが注意して欲しい点がいくつかあります。
- 余ったフィラリア予防薬を自己判断で投与しない
- インターネットで購入した予防薬を勝手に使用しない
動物病院での血液検査の重要性
動物病院でその年に初めてのフィラリア予防薬を処方する際、かならず血液中にミクロフィラリアが存在していないか、フィラリアの感染が成立していないかを調べる検査をおこないます。フィラリアの予防は蚊の発生より前から蚊の発生より後までおこないますが、年中蚊が飛んでいる地方を除いて蚊のいない冬の間には予防をおこないません。
仮に年の最後の予防薬を投与した後にフィラリアに感染してしまった場合、冬の6カ月の間にミクロフィラリアは成長を続け、成虫となり大量のミクロフィラリアを血液中に放出している可能性があります。
このミクロフィラリアが大量に寄生している状態で駆虫薬を投与してしまうと、フィラリアの死体による血管の塞栓や、アレルギー物質によるショックなどを引き起こし、犬の命に関わる症状を引き起こしかねません。
「①」春に去年の残りのフィラリア薬を自己判断で投与することはこのような事故を引き起こす可能性があり危険です。
また、フィラリア予防薬にはコリーなどのmdr1遺伝子の変異がみられる特定の犬種では神経毒性を持つ種類があります。
「②」インターネットでフィラリア薬を購入し使用した場合、犬が死亡する危険性があります。
フィラリアの予防には、実施前に必ず検査してあげましょう。そして、毎年検査してあげるのが難しい場合には、「通年投与」という選択を選ばれるのも、また一つです。
あくまで確率論ですが、もし暖冬で蚊が飛んでいて、その蚊がミクロフィラリアを保有していて、その蚊に刺された場合には、春の検査で悲しい結果が出ることも否定できません。
蚊が飛び出した時期から開始し、蚊が飛び終わってからもう1 回投与する方法か、できる限り感染症の可能性を減らしたいと考えるのであれば、通年で飲ませてあげるのか、かかりつけの獣医師に相談してみましょう。
また、フィラリアの検査であれば、ほとんどの動物病院でも受け付けていますので、この機会にかかりつけがお休みの時に駆け込めそうな動物病院へ行ってみて、まずはカルテ作成とご挨拶を目的として通ってみるのもいいのかなと思います。
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愛犬がフィラリア陽性のとき
フィラリア症の治療法
フィラリア症の治療では
- 幼虫であるミクロフィラリアの駆虫
- 成虫のフィラリアの駆虫
- フィラリアと共生する微生物であるボルバキアの駆除
をおこないます。
これらの3つの治療法には異なる薬剤が使用され、また犬の状態を鑑みて併せて治療をおこなっていきます。
ミクロフィラリアに対する駆虫
ミクロフィラリアに対する駆虫ではイベルメクチンなどの大環状ラクトン系抗生物質を使用します。これらの薬剤はフィラリアの予防として使用されるものでもあり、感染直後から60日までのミクロフィラリアを効率的に駆虫することができます。
また、ミクロフィラリアとフィラリア成虫の中間的な個体に対するある程度の駆虫効果や、フィラリア成虫がミクロフィラリアを放出することを防ぐ効果を期待し、成虫の駆虫薬に併せて使用することがあります。
成虫に対する駆虫
犬に感染したフィラリアは180日で生殖能を持つ成虫になります。成虫に対する駆虫薬ではメラルソミンなどを使用しますが、猛毒であるヒ素系の薬剤でありかなり強い効果を持ちます。加えて、フィラリア成虫は一気に駆虫をおこなうことで~30cmほどの細長い虫体が肺の血管を塞栓させ、劇的な症状を引き起こす危険性があります。フィラリア症の治療では重篤な副反応を抑えるため、ゲージレストの徹底など厳格な運動制限が必要になります。
ボルバキアに対する治療
フィラリアは体内に存在するボルバキアとよばれる細菌と共生関係にあります。ボルバキアはフィラリアの長期生存や、受精卵からの成長、身体の発達など数多くの非常に大切な役割に関係しているといわれています。フィラリア症の治療では共生細菌であるボルバキアをターゲットにした治療をおこなう場合があります。
例えば、アメリカと欧州においてフィラリア感染症に対する啓もうや防除をおこなっている機関であるthe American Heartworm Societyおよびthe European Society of Dirofilariosis and Angiostrongylosisでは、フィラリア症の治療において、ボルバキア感受性の抗生物質と、イベルメクチン系薬剤を前投与することで、ミクロフィラリアの駆虫や一部の成虫の駆虫をおこない、メラルソミン単剤での副反応を最小限にするプロトコルが紹介されています。
外科的治療が必要な場合
フィラリア成虫の寄生数が多く心機能が破綻している場合や、大静脈症候群を引き起こしている場合には救命のために外科的なフィラリアの摘出をおこなう必要があります。フィラリアは首にある太い血管である経静脈から心臓まで器具を挿入し、吊りだすことで除去をおこないます。
外科的なフィラリアの摘出を行える動物病院は、都市部であればあるほど希少です。
そのため、もし外科処置が必要であると判断された場合には、かかりつけの獣医師に実績を確認したほうがいいかと思われます。
もし経験がない、または得意ではないとされた場合には、その手術ができる別の動物病院を紹介していただくことをお勧めします。
また、この病気は予防できることが特徴ですので、きちんとした予防を施してあげることが何より大切です。最近では、海外薬を取り寄せて飼い主様が自らの判断であげているということが多く見受けられるようになりました。
万が一感染していた場合に、気づかずにあげてしまって取り返しのつかないことにならないよう、便利な世の中だからこそ、しっかりとした知識を身につけましょう。
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まとめ
- フィラリアは犬の心臓に寄生する。
- フィラリアは蚊の吸血で感染が成立する。
- フィラリア症を予防するためには蚊がみられる季節に前後1カ月を合わせた期間、月に一回駆虫薬を投与する。
- フィラリア予防薬を投与する前にはかならず動物病院での検査を受ける必要がある。
- フィラリア症はしっかりとした予防、治療、再発防止をおこなうことで致死的な末期症状を予防できる。
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※1:Heartworm disease – Overview, intervention, and industry perspective
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8163879/
※2:Prevalence of Dirofilaria immitis among shelter dogs in Tokyo, Japan, after a decade: comparison of 1999–2001 and 2009–2011
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3937804/
※1当社運営ペット葬儀サービスに対するお客様アンケート:詳細はこちら ※2 弊社運営ペット葬儀サービス全体のお問い合わせ件数
この記事の執筆者
若林 薫氏
獣医師
ライター
若林 薫氏
獣医師
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麻布大学を卒業し獣医師免許を取得、大手ペットショップで子犬・子猫の管理獣医師として勤める。その後、製薬企業での研究開発関連業務を経て、ライターとして活動する。幅広い専門知識を生かした記事作成を得意とする。
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