2022.04.25
2023.09.11
犬のクッシング症候群。末期症状や余命、治療法について解説。
クッシング症候群は犬でよくみられる内分泌疾患です。皮膚をはじめとした全身に症状がみられ愛犬の健康をおびやかします。余命に関わる末期症状や、病気が発症しやすいペットの年齢、動物病院でおこなえる治療などについて獣医師がわかりやすく解説します。
クッシング症候群とは犬でよくみられる内分泌疾患
クッシング症候群は犬でよくみられる内分泌疾患であり、副腎皮質機能亢進症ともよばれます。犬の腎臓の付近にある副腎とよばれる小さな臓器に異常がみられ、副腎皮質ホルモンが過剰に分泌される疾患です。
副腎皮質ホルモンであるコルチゾールは動物用医療薬として一般的に使用されているステロイドの一種であり、少量でも犬の身体に対する大きな薬理作用を持ちます。
クッシング症候群の犬では全身性の症状や、併発するいくつもの大きな疾患による生命の質(QOL)の低下、余命に関わる体調不良を引き起こす可能性があります。
クッシング症候群の原因
クッシング症候群を引き起こす原因は「1」下垂体性、「2」副腎性、「3」医原性の3つに大別されます。「1」下垂体性、「2」副腎性のクッシング症候群は特定の臓器に腫瘍が発生することで引き起こされます。
クッシング症候群の原因をよく理解するためには副腎皮質ホルモンがどのようにして分泌されるのかを簡単に理解する必要があります。
犬の身体が副腎皮質ホルモンを必要としているとき、脳にある下垂体と副腎の2つの臓器が働きます。下垂体は副腎に対してホルモンを分泌させるための司令塔の役割をもつ臓器であり、ホルモン分泌の号令である「副腎皮質刺激ホルモン」を分泌します。
副腎は下垂体の号令を受け、実際にホルモンを分泌する工場の役割を持つ臓器です。「副腎皮質刺激ホルモン」を受け取った副腎は、皮質とよばれる部分より「副腎皮質ホルモン」を分泌し、犬の身体で必要なホルモンの不足分を補います。
下垂体性クッシング症候群
「1」下垂体性クッシング症候群は犬のクッシング症候群のうち8-9割を占める疾患です。「副腎皮質ホルモン」を分泌するための司令塔である脳の下垂体に、「副腎皮質刺激ホルモン」を分泌する腫瘍が発生します。
下垂体性クッシング症候群では「副腎皮質刺激ホルモン」の過剰分泌が、副腎による「副腎皮質ホルモン」の過剰分泌を誘発することで症状を悪化させます。
副腎性クッシング症候群
「2」副腎性クッシング症候群では「副腎皮質ホルモン」を分泌するための工場である副腎に「副腎皮質ホルモン」を分泌する腫瘍が発生します。腫瘍の増殖に伴う「副腎皮質ホルモン」の過剰分泌がみられます。
医原性クッシング症候群
「3」医原性クッシング症候群は「1」下垂体性、「2」副腎性とは異なり、腫瘍性ではなく人為的な原因で引き起こされます。
動物用医薬品であるステロイドは副腎皮質ホルモンと非常に近い作用を持つため、ステロイドを使用した疾患の治療が長期間続いた場合、「3」医原性のクッシング症候群がみられることがあります。
ただし、ステロイドは正しく使用することで特定の疾患に対する効果的な治療をおこなうことができる薬物であり、同時に急に断薬することで命に関わる副反応を引き起こす可能性を併せもちます。
医原性クッシング症候群を疑う症状がみられたとしても、自己判断で断薬、減薬をおこなってはいけません。かならず、かかりつけの獣医師に相談し、獣医学的知見に基づいた判断のもと治療方針を見直すようにしてください。
クッシング症候群の好発犬種
クッシング症候群は9~11歳前後の中高齢の犬でよくみられる疾患です。プードル、ダックスフント、ヨークシャーテリア、マルチーズなどの日本でよく飼育されている犬種で好発するとされており、ジャックラッセルテリア、ホワイトテリア、ビション・フリーゼ、キャバリア、シュナウザー、ボクサーなどの犬種でも好発すると報告されています。
クッシング症候群の症状と余命
注意が必要な症状とは?
クッシング症候群で過剰に分泌される副腎皮質ホルモンは、全身臓器に影響を及ぼすため、当疾患ではさまざまな症状が引き起こされます。その中でも多飲多尿、食欲亢進、皮膚症状は特に注意が必要です。
多飲多尿
普段よりも水を多く飲み、尿を多く出す症状です。クッシング症候群でよくみられます。
食欲亢進
異常に食欲が増加します。多飲、多尿と併せて、当疾患の大部分の犬でみられる症状です。体重の増加、肥満などの症状もみられる場合があります。
皮膚症状
左右対称の脱毛、皮膚が薄くなる、毛穴が黒くみえる面皰(めんぽう)、皮膚が変色する、などの皮膚症状がよくみられます。
そのほかの症状
お腹が膨れている腹囲膨満、四肢の筋肉が痩せる筋萎縮、元気がなくなる、良く寝ているなどの嗜眠、肢の靭帯が切れてしまう靭帯断裂、などさまざまな症状がみられる場合があります。
末期症状と併発疾患について
クッシング症候群が進行することでホルモンの過剰分泌により障害された臓器に起因する他の疾患がみられることがあります。糖尿病、膵炎、高血圧症、血栓塞栓症、感染症およびに結石症などの下部尿路疾患などの併発疾患はクッシング症候群の治療を複雑にし、より犬の体調を悪化させるものです。
クッシング症候群の末期症状は、いくつかの併発疾患が関係し引き起こされる可能性があると考えることができます。クッシング症候群の死因として糖尿病、尿路疾患、血栓塞栓症などの併発疾患が含まれるとする報告もあります。
また、下垂体性クッシング症候群および副腎性クッシング症候群は腫瘍が引き起こす疾患のため、病態が進行することで腫瘍の浸潤や転移による末期症状がみられる場合もあります。
下垂体性クッシング症候群では脳の一部に腫瘍が発生するため、くるくるとその場を回る旋回、意識があいまいになる昏睡、立てなくなる、運動が上手にできなくなる運動失調などの神経症状が引き起こされ、副腎性クッシング症候群では副腎のすぐそばを流れる太い血管である大静脈の障害、突然死、細い血管の障害による失血性の貧血、腸などの臓器の障害、強い腹痛などが引き起こされることがあります。
クッシング症候群の余命
クッシング症候群の犬の余命は治療をおこなった場合とおこなわなかった場合、腫瘍の発生した位置、内科的治療と外科的治療によって異なります。
クッシング症候群に罹患した犬のうち、治療をおこなった犬の中央生存期間(MST)は521日であり、治療をおこなわなかった犬では178日であると報告されています。MSTは余命を表す指標です。
内科的な投薬による治療をおこなった犬では、下垂体性クッシング症候群に罹患した犬のMSTは662-900日、副腎性クッシング症候群に罹患した犬のMSTは353-475日と報告され、外科的な腫瘍の切除による治療をおこなった犬では、下垂体性クッシング症候群の犬が4年後に生存している確率は72-79%、副腎性クッシング症候群に罹患した犬のMSTは533-953日であったと報告されています。
また、下垂体性クッシング症候群の犬では腫瘍が大きくならない場合には余命は比較的長く、一方直径が1cmを超えている場合には余命はあまり長くないともされています。
クッシング症候群を発症した犬にできること
クッシング症候群はある程度長い経過を辿る疾患であり、長い闘病が必要になる場合があります。当疾患を罹患した犬にとって動物病院を受診しできる限りの治療を継続することは非常に大切です。全身症状や併発疾患のコントロールは犬のQOLを維持し、より長く健康に過ごす時間を与えてくれるでしょう。
動物病院でおこなう検査と治療
獣医師がおこなう検査
クッシング症候群を診断するために動物病院ではいくつもの検査を組み合わせておこなっていきます。身体検査や血液検査、エックス線検査やエコー検査などの画像診断は犬の体調不良の原因がどのような疾患かをある程度絞り込むためにおこないます。
クッシング症候群が疑わしい犬に対してはさらに詳しい検査を何種類かおこなう必要があります。当疾患では脳にある下垂体、腎臓近辺にある副腎などの複数臓器がお互いに影響を及ぼすことで症状があらわれるので、1種類の検査では検査が不十分な可能性もあるためです。
クッシング症候群の検査でおこなう血液検査には、副腎皮質ホルモンと同様の効果があるステロイドを使用した低用量デキサメタゾン抑制試験(LDDST)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の投与による身体の反応をみるACTH刺激試験などの種類があります。
クッシング症候群の治療法
外科的治療
クッシング症候群の治療法には薬物による治療である内科的治療法と、原因となる腫瘍を切除する外科的治療法があります。
外科的な治療法は上手く腫瘍を切除できれば完治を目指せますが、腫瘍の状態では実施できないことがあります。とくに下垂体性のクッシング症候群では脳の一部を切除するため、一般的に大学病院などの二次診療病院などを受診する必要があります。
また、腫瘍の切除が適切におこなわれたとしても、摘出した臓器より分泌されるホルモンを投薬により一生補充しなければなりません。
内科的治療
内科的な治療は副腎皮質ホルモンの異常な分泌を抑える目的でおこないます。副腎皮質ホルモンを合成する物質の働きを抑える薬や、副腎皮質ホルモンを合成する細胞を攻撃する薬などを獣医師の判断のもと選択します。
治療費について
クッシング症候群は複雑な検査や、内科的、外科的治療、また長期の通院が必要なため、治療費の負担が大きくなってしまう疾患です。
近年犬の長寿化が進んでおり、慢性疾患の罹患や怪我の治療など思わぬ出費の機会が増えています。転ばぬ先の杖として、犬が健康なうちにある程度の貯蓄をおこなうようにしましょう。
まとめ
- クッシング症候群は犬でよくみられる内分泌疾患であり、副腎皮質ホルモンが異常に分泌される。
- クッシング症候群には下垂体性、副腎性などのいくつかの種類があり、主に腫瘍が関係する。
- 皮膚の異常や多飲多尿などの全身症状、併発するいくつかの疾患が関係する末期症状がみられる。
- 診断のために低用量デキサメタゾン抑制試験、ACTH刺激試験、エコー像検査などをおこなう。
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Diagnosis of Spontaneous Canine Hyperadrenocorticism: 2012 ACVIM Consensus Statement (Small Animal)
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Update on the use of trilostane in dogs
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5855282/
Survival analysis of 219 dogs with hyperadrenocorticism attending primary care practice in England
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7146928/
Cushing’s syndrome—an epidemiological study based on a canine population of 21,281 dogs
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6500859/
Canine hyperadrenocorticism associations with signalment, selected comorbidities and mortality within North American veterinary teaching hospitals
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6559942/
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この記事の執筆者
若林 薫氏
獣医師
ライター
若林 薫氏
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麻布大学を卒業し獣医師免許を取得、大手ペットショップで子犬・子猫の管理獣医師として勤める。その後、製薬企業での研究開発関連業務を経て、ライターとして活動する。幅広い専門知識を生かした記事作成を得意とする。
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