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インタビュー

2023.04.21

2023.09.11

動物のケアはシームレスに。東京キャットガーディアン代表・山本葉子さんにインタビュー

「NPO法人東京キャットガーディアン」は、日本初の「保護猫カフェ」運営を通じて行政などから猫を引き取り、適正な飼育者へ譲渡する活動と地域猫活動を行っている団体です。今回は東京キャットガーディアン代表の山本葉子さんに、活動の内容とシームレスな(継ぎ目のない)動物ケアについてお話を伺いました。

「NPO法人東京キャットガーディアン」は、日本初の「保護猫カフェ」運営を通じて行政などから猫を引き取り、適正な飼育者へ譲渡する活動と地域猫活動を行っている団体です。

野良猫や飼い主のいない猫の不妊去勢手術を専門とする動物病院も設け、賃貸マンションで猫を預かり飼育できる「猫付きマンション」、成猫の引き取り・再譲渡事業など、さまざまな活動を展開しています。

今回は東京キャットガーディアン代表の山本葉子さんに、活動の内容とシームレスな(継ぎ目のない)動物ケアについてお話を伺いました。

足りないのは愛情ではなく「システム」

足りないのは愛情ではなく「システム」

本日はよろしくお願いします。まず東京キャットガーディアン設立の背景について教えてください。

山本さん:もともとは私の個人シェルターから始まりましたが、個人で保護・譲渡できる猫の数はすぐに限界を迎えます。「誰も望んでいない殺処分 足りないのは愛情ではなくシステムです」と掲げているとおり、「永遠に続くシステムがほしい」と考えたのが2008年に設立した東京キャットガーディアンの始まりです。

当時は、まだ保護猫の有償譲渡が一般的ではありませんでした。猫の保護・譲渡は医療費やご飯代など非常にお金がかかる事業なのですが、当時は譲渡時にワクチン代がいただけるかどうかという程度だったのです。

つまり地域で猫のお世話を懸命にしたり、過剰繁殖を抑えたりしている方は繰り返し身銭を切ることになります。猫の保護・譲渡をずっと続くシステムにしていくために、当団体では譲渡時に保護・飼育にかかった費用の一部をいただく有償譲渡を開始しました。今ではこの方法が一般的になってきています。

ただひとつお伝えしておくと、「続かないやり方をするのは良くない」とは考えていません。自宅の付近に猫が多かったり、子猫を見かけたりしたとき、たとえ猫があまり得意ではない方でも「殺処分されてほしくない」「助けたい」と思うのは自然でしょう。

ごくごく当たり前のその心情を否定する考えは決してありません。そうした方々のおかげで助かっている猫たちや犬たちがたくさんいて、過剰繁殖もかなり抑え込めています。

猫の殺処分に関して、近年の状況はどのようになっているのでしょうか。

山本さん:東京都に持ち込まれる猫の数は下降しています。それには猫の保護活動をする方が増えたから、過剰繁殖が起きないように不妊去勢手術を受けさせる方も増えたからという理由があるでしょう。また、東京には当団体のように猫を引き取る登録団体も多いため、持ち込まれた後に引き取られる猫も多いというのもあるかと思います。

東京都の統計で、現在犬と猫の殺処分は「ゼロ」となっていますが、これにはひとつ注釈が必要です。

「犬については平成28年度から3年連続、猫については平成30年度に初めて殺処分ゼロを達成した」※1と発表されているのですが、病気や怪我などにより譲渡に適さない個体は少なからず「致死処分」※2されています。保護された犬・猫が全く亡くなっていないわけではないということです。

大切なのは「ケアの質」

保護猫の引き取り・譲渡活動について教えてください。

山本さん:動物の飼育には適正なケアと場所が必要だと考えています。救命救急医療ができない場所では事故に遭った動物の生存率が大きく下がってしまいますし、保護される猫の多くは低体温症になっています。

そのため、私たちの目標のひとつは「行政に成り代わる」こと、言い換えれば猫のケアのエキスパートとして、より少ないお金でクオリティの高いケアをすることです。

行政によるケアには、業務時間や数年ごとの部署異動といった事情でどうしても限界があります。動物をケアして譲渡する、その過程で感染症を発生させないようにするということにかけては、登録団体や活動家など民間のほうが適していると考えています。

シェルター内病院や提携病院も

シェルター内病院や提携病院も

シェルター内には病院もあるそうですね。

山本さん:当団体のシェルターで暮らす猫たちの不妊去勢手術を専門とする「そとねこ病院」があります。インハウスホスピタルなので、設備は比較的簡易です。レントゲンやエコーなど高度医療が必要な場合は、協力提携している動物病院へお願いしています。

当団体では一カ月に50~60匹の猫を里親様へ譲渡していますので、動物病院のサポートも厚く、非常に安価で高度な医療を受けさせていただいています。

それほどたくさんの猫たちが巣立っていくのですね。シェルターに猫が多い時期はありますか?

山本さん:東京だと年に2回、春と秋が猫の出産シーズンです。暖かい地域だと出産回数は増えるため、沖縄のほうだと年に4回くらいあります。

譲渡面談に受かった里親様がたくさんいる状態で子猫が少ないと争奪戦になりますが、里親様のお申し出よりも子猫の数のほうが上回ってくるのが7月頃でしょうか。出産自体は春で、譲渡に適した猫がたくさんいる時期が7月頃です。同じことが秋にも起こります。

数だけの話でいえば、大人の猫やハンデを持つ猫に譲渡のチャンスが増えるのは、子猫が少ない時期ともいえます。

ペットウェルカム物件だけを掲載する「しっぽ不動産」

ペットウェルカム物件だけを掲載する「しっぽ不動産」

「しっぽ不動産」についても教えてください。

山本さん:しっぽ不動産は、ペットウェルカム物件だけを掲載する不動産ポータルサイトです。現在存在する物件には、「ペット可」の物件があります。

これはあくまで「ペット可」であって、「猫OK」とは限りません。実際は「小型犬1頭ならOK」ということがままありますので、猫の飼育ができる物件はとても希少です。

しかし、大手の不動産情報サイトだと「ペット可」の検索条件しかないことがほとんどですので、ユーザーは詳細を問い合わせる必要があります。その状況を変えていきたいと思い、しっぽ不動産では、ペットウェルカム物件に特化した情報収集をしているのです。

しっぽ不動産にご登録いただく場合は、どんな種類の動物がOKなのか、何頭までOKなのかを書いていただきます。そして「ペットウェルカム」の態度、動物との共生を前向きに考えていらっしゃるオーナーの物件のみに絞って掲載しています。

「猫付きマンション」「猫付きシェアハウス」という物件も気になりました。

山本さん:猫付きマンションと猫付きシェアハウスでは、面談を経て、当団体の猫を預かり飼育するという契約を結びます。「一生飼う」という契約ではなく、里親募集中の猫を預かって飼育していただくということです。

最終的にその方自身が里親様になってくださることも少し期待していますが、猫付きシェアハウスだと住人の方からお申し出を受けるケースもあれば、外部の方からお申し出があって譲渡することもあります。

安易にお店を開かせない「猫カフェスクール」

安易にお店を開かせない「猫カフェスクール」

「猫カフェスクール」についても教えてください。

山本さん:猫カフェスクールは、「保護猫カフェ」を開きたい方向けの2時間の講座です。まず、商業猫カフェと保護猫カフェには違いがあります。

どちらも猫をお見せして(猫との触れ合いを含む)お金をいただく事業という点は共通するため、動物園や水族館などと同じ「第一種動物取扱業」に分類されますが、保護猫カフェの運営目的は「譲渡」です。保護猫カフェにいる猫たちを卒業させる、適正な飼育者様に譲渡する事業です。

当団体は「一般社団法人保護猫カフェ協会」の理事として、保護猫カフェを「保護猫譲渡の努力をしている場所」と定めました。

一方、商業猫カフェであれば、人気の猫たちは末永くお店にいてほしいものですよね。猫が卒業すること、そして次の子たちを迎えて譲渡先を探すという保護猫カフェとは目的が違っているのです。

スクールではどのようなお話をされるのですか?

山本さん:いらっしゃるどなたも「猫たちを助けたい」という思いをお持ちですが、私たちの意向としては、安易な開店をさせないことが重要です。保護猫カフェを安易に始めてしまうと、事業がうまくいかなくなったときに数十頭もの猫が行き場を失ってしまうかもしれないからです。

事業計画が立てられないうちは開店しないようにと、いわば諦めていただくために説得します。保護猫カフェはただでさえ客単価が低い事業ですし、コロナ禍でご来場者さんがほぼゼロになった時期もありますから。

保護猫カフェだけが方法ではない。無理のない関わり方を

保護猫カフェだけが方法ではない。無理のない関わり方を(h2)

保護猫カフェを運営する以外に、猫たちにかかわるにはどのような方法がありますか?

山本さん:場合によっては、ご自身は別のお仕事で収入を得て、そのお金で活動家さんをサポートするほうがより多くの猫が助かるかもしれません。

がんばっている他の方の広報を手伝う、その方が発信する動画の再生回数を増やす、「いいね」を付けるといった行動、ほとんどお金もかからないようなことでもできることはたくさんあります。

動物も人も傷つかない、良いことだらけのそうした活動から着手し、情報収集や経験の蓄積をしていくこともひとつの方法ではないでしょうか。

東京キャットガーディアンさまでは、そうした活動方法についても問い合わせを受けますか?

山本さん:ボランティアビギナーさん向けの企画は多数用意しています。毎月、シェルター見学ツアーをしながら、あるいはものづくりの軽作業をしていただきながら、活動方法や動物行政についてのご質問にお答えしています。

アレルギーも含めて難しいこともありますから、ご自身に合う、無理のない活動が一番長く続くのではないかと思います。

シームレスなケアが重要。終活を考える「ねこのゆめ」

シームレスなケアが重要。終活を考える「ねこのゆめ」(h2)

成猫の引き取りと再譲渡事業「ねこのゆめ」についてもお聞かせください。

山本さん:当団体では活動開始した2008年から高齢者のペット飼育問題に取り組んでおり、成猫のお引き取りと再譲渡の事業も行っています。

たとえば飼い主さんがご高齢で入院されたり、亡くなられたりといった理由で飼育ができなくなる場合に備えて、当団体での引き取りと再譲渡の費用を積み立てていただくのが「ねこのゆめ」という事業です。

当団体が引き受けるだけでなく、飼い主さんご自身で里親募集サイトから引き取り先を見つける、あるいは私たちが提供する里親募集サイトをご利用いただくのもいいと思います。

愛猫を看取った際に「私が高齢だから、もう飼えないかな」と考える方もいらっしゃるのですが、いざというときの引き取り先を考えておけば、もう一度猫と暮らすこともできますよね。ぜひそうした準備もしておいていただけたらと思っています。

問い合わせをされるのは、やはり高齢の方が多いのでしょうか?

山本さん:近年は団塊の世代の方々が動物を手放すご年齢になってきているのですが、ケアマネージャーさんや福祉事務所からのご相談をお受けすることも増えています。

「猫と人の終活勉強会」という会も定期的に開いていますので、そこへエンディングノートを持っていらっしゃる方もいますし、弁護士さんが参加されることもあります。動物には財産権が適用され、飼い主さんが意思を示せなくなった場合、ご遺族の財産となるからです。

モノは行き先が決まるまで保管すればよいですが、ペットは置いておけません。ご飯をあげるなどのお世話をしないと亡くなってしまいますから、動物の保護はシームレスでないといけないのです。

ご高齢者が亡くなった際、当団体が警察から呼ばれることがあります。それは現場にペットがいるからなのですが、飼い主さんから生前に意思が伝えられていない限り、飼育ができる人間であっても、第三者は現場に立ち入ることができません。

お別れを考えるのはつらいことですが、ご自身に何かあった場合を考え、ペットの引き取りに関する生前予約などの備えをしていただけたらと思います。

今後は「猫付きカンパニー」も開始予定

今後は「猫付きカンパニー」も開始予定

今後のご計画がありましたらお聞かせください。

山本さん:猫付きマンション、猫付きシェアハウスの次の形として「猫付きカンパニー」(商標登録済)を計画しています。一歳以上の保護猫を会社でお預かりいただくというものです。

そこに預けられる猫たちのステータスは「里親募集中」ですので、会社で一生飼育していただく必要はありません。私たちとお話し合いのうえで、預かり飼育をやめたり、体調が良くない猫をシェルターに戻したりもできます。

もちろん社員の方が引き取られる場合もあるでしょうから、その場合はまた違う猫を預かり飼育していただきます。

猫付きカンパニーは小さいシェルターのように継続していける場になり、当団体のシェルターに一番近い環境で譲渡事業が続けられるのです。また、会社さんにとっても社会貢献事業の取り組みとして評価が得られます。

猫付きカンパニーの飼育条件にはどのようなものがありますか?

山本さん:休日にお世話をする方がいない、夜間は空調が止まってしまうということがないようにしていただきます。ご飯代や猫砂代、日常の医療費はご負担いただきますが、大きな治療が必要になった猫はシェルターにお戻しいただき、こちらの負担で医療を受けられます。

会社さんにとってのリスクはほぼないため、会社で猫を飼いたいという場合にはとてもいい条件なのではないでしょうか。

「飼い猫を連れて来られる会社」もあると思いますが、動物にとって通勤は逃走の危険がありますし、メンタル面でもストレスになり得ます。会社が住まいである、という形で猫たちが暮らせたらいいですね。今後、猫付きカンパニーの公募をしていく予定ですので、ご検討いただければ幸いです。

本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。

NPO法人東京キャットガーディアン代表。日本初の保護猫カフェの運営、猫付きマンション、猫用品のお買い物で保護活動に参加できる仕組みの「ShippoTV」運営など、さまざまな活動を展開。「シェルターから伴侶動物をもらう」という選択肢の存在を広く発信すべく活動中。

参考文献

※1:東京都|動物の殺処分ゼロを達成しました(2019/4/5)
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2019/04/05/03.html(閲覧日:2023/4/20)
※2:東京都福祉保健局|致死処分数の推移(昭和55年度~令和3年度)
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/kankyo/aigo/toukei/tokyo-toukei.files/R3_03_chishisuii.pdf(閲覧日:2023/4/20)

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